ロッテ不動のリードオフマン、荻野貴司。
昨季オフ、国内FA権を行使するのではとの報道が出ていた際は、多くのロッテファンが眠れぬ日々が続いたのではないでしょうか。
今年で36歳、ロッテ一筋11年目の男の活躍の秘訣はどこにあるのでしょうか。
●荻野の最大の武器「足」
荻野と言えば、ロッテファンのみならずプロ野球ファンなら誰しもが最も印象強いのは、何と言っても「足」ではないでしょうか。
新人年の2010年の荻野のインパクトは凄まじく、何でもない平凡なショートゴロすらセーフにしてしまう荻野を見て「10年はリードオフマンに困らないだろう」と思わされてしまうほど強烈なものでした。
しかしその後は、毎年の様にケガに泣かされ年間通して活躍することが出来ない荻野ですが、2019年シーズン、念願の初規定打席到達、打率3割超え、28盗塁の好成績に加え、その年ロッテ唯一のタイトル(B9、GG賞)を獲得し、10年目にしてようやく球団、ファンの期待に応える不動のリードオフマンとなりました。
2020年の昨シーズンも、21試合目にしてシーズン二桁盗塁を決め、新人から11年連続二桁盗塁を決めるなど、例年以上のペースで盗塁を量産していました。
しかし7月22日の西部戦にて右大腿二頭筋の損傷で離脱すると、2か月後の9月25日にようやく復帰しました。
しかし10月4日に今度は新型コロナウイルスの感染により再び離脱、結局1軍復帰したのは更に1か月後の10月20日でした。
しかし復帰後は、不動の1番バッターとして走攻守ともにチームに貢献、チームも荻野復帰とともに再び上昇気流にのり、見事4年ぶりのクライマックスシリーズ進出を飾ることができました。
荻野の存在、特に「足」はそれほどチームに欠かせない存在となっているのです。
●データで解く荻野の凄さ
では今度はデータから荻野の特徴を見てみましょう。
まずは先述している荻野の一番の武器である「足」。
注目すべきは荻野の「盗塁成功率」です。
荻野の通算盗塁数は2020年シーズン終了時点で220個に対して、盗塁死はわずか41個。
通算盗塁成功率は0.842と驚異の84.2%です。
この数字がどれだけ凄いかというと、昨今のプロ野球界では盗塁成功率は70%で普通、75%で一流、80%は超一流と言われています。
この数字を単年ではなく、ケガがありながらの通算成績で84%ですから凄い記録です。
ちなみに、年度別(2010年~2020年)で見てみると、70%台→2度、80%台→6度、90%台→2度とほとんどの年で80%以上を記録しています。
しかも特筆すべき点は、直近3年の成功率は82.2%と年齢を全く感じさせないということです。
新人の頃は、盗塁をする際、ベースまでスライディングする距離が近すぎてスライディングスピードが速すぎるあまりベースへの衝突衝撃が強く、結果膝の故障などに繋がっていました。
しかし近年では、脚力こそ少し衰えは見えるものの、それを補うだけの盗塁勘や経験、盗塁技術で現在でも高い成功率が残せています。
通算150盗塁以上記録している選手の盗塁成功率ランキングを見てみると、山田哲人(現ヤクルト)、西川遥輝(現日本ハム)、イチロー(前オリックス)に次ぐ第4位にランクインと、歴代の往年の名選手たちと並べても遜色のない超一流の選手であることは間違いありません。
選手名 | 成功 | 失敗 | 盗塁成功率 |
山田哲人 | 176 | 28 | .863 |
西川遥輝 | 292 | 48 | .8588 |
イチロー | 199 | 33 | .8578 |
荻野貴司 | 226 | 44 | .837 |
鈴木尚広 | 228 | 47 | .8291 |
広瀬叔功 | 596 | 123 | .8289 |
呉昌征 | 381 | 81 | .825 |
松井稼頭央 | 363 | 80 | .819 |
赤星憲広 | 381 | 88 | .8124 |
柳田悠岐 | 151 | 35 | .8118 |
木塚忠助 | 479 | 114 | .8078 |
中島卓也 | 176 | 42 | .8073 |
●足に隠れがちである「打撃術」
荻野を特徴としてもうひとつ注目すべきは「打撃術」。
特徴的なのは、何と言ってもバットのグリップを持つポジションです。
ほとんどの選手がグリップエンドに手をかけるのに対して、荻野はこぶし1つ分短く持っています。
これは野球をしたことがある方ならお判りになるかと思いますが、基本的にグリップを短く持てば、バットの操作性は上がりコンタクト率が上がります。
しかしその代わり、内角にきたボールを打つ際に窮屈になり詰まってしまう、外角のボールに届かずに空振りしてしまう等のデメリットがあります。
そのデメリットを補う荻野の高い打撃技術として「内角の球を捌く鋭い体の回転」が挙げられます。
まずは体の回転ですが、荻野は俗にいう「早打ちのプルヒッター」です。
1年目から四球の数はそこまで多くない選手で、狙い球をしっかり絞り、好球必打を心がけるタイプのバッターです。
データで見てみると今シーズン5月現在の荻野は、ストライクゾーンでのスイング率は60.8%に対し、空振り率3.6%とコンタクト率が高い結果となっています。
また荻野の打球方向を見てみると、全打球の84.6%の打球がセンターからレフト方向に飛んでいます。
しかし外国人バッターやホームランバッターのような全てのゾーンの球を腕の力で強引に引っ張るのではなく、構えてから打ち出すまでのバットのグリップの位置(高さ)を変えることなく、下半身→腰を回転させ、バットを体に巻き付かせるような軌道を描くことでボールにバットを乗せて内角にきた球でも力負けすることなく打球を引っ張ることができるのです。
また体の回転軸に近い軌道をバットで描くので、ボールをギリギリまで引き付けることでしっかりと外角の球や変化球にも反応でき、内外だけでなく前後まで対応することができ、広いストライクゾーンでコンスタンスにヒットを量産しているのです。
●背番号0が秘める可能性
今年36歳のベテランの域に入っている荻野ですが、直近3年の数字を見ると各部門にて過去最高の数字を残し続けています。
2019年には、自己初の二桁本塁打にOPS(打撃貢献度指数)0.842。打率や塁打もケガに悩まされ続けた7年目以降は、安定して2割後半から3割前後、100塁打以上とコンスタンスに成績を残しています。
衰え知らずの男・荻野貴司 36歳。
将来有望の若手が多く在籍しているロッテですが、荻野以上に球団・チームメイト・そしてファンから愛される韋駄天はこの先現れることはないでしょう。
千葉ロッテマリーンズ悲願のリーグV、そしてその先にある、悲願の日本一はこの男なくして成し得ることはできないでしょう。
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