2019年シーズン終盤、彗星のごとくプロ野球界に現れた戸郷翔征投手。
最速154キロのストレートを投げる本格派右腕。
変化球はカーブ、スライダー、カットボール、スピリット、チェンジアップと多彩です。
高卒1年目、戸郷投手はイースタン・リーグで11試合に登板して4勝1敗、防御率3.00という成績を残します。

そして、セ・リーグ優勝のかかった9月21日のDeNA戦で1軍初登板・初先発を果たし、4回2/3を投げ2失点と試合を作り、チームは勝利してリーグ優勝。
9月27日のDeNA戦では5回から登板。4回無失点でプロ初勝利を挙げました。
2020年の今年、大リーグのブルージェイズに移籍した山口俊投手の後を埋めるローテーション候補の一人として、戸郷投手は巨人首脳陣から期待されているのです。
【戸郷翔征の高校時代】
戸郷投手は宮崎県の聖心ウルスラ学園高校の出身。
1年秋からベンチ入りし、2年夏にはエースピッチャーの座につき甲子園に出場。
甲子園初戦の早稲田佐賀高校戦は2失点完投勝利。
2回戦で福島の強豪・聖光学院高校に4対5で破れました。
その後、戸郷投手率いる聖心ウルスラ学園高校は、甲子園の土を踏むことはありませんでした。
ところで戸郷投手は、最速148キロの速球派投手ということで宮崎県では注目されていた投手でした。
しかし全国的にはほぼ無名の選手でした。あることが起きるまでは。
2018年9月、U-18代表の壮行試合として宮崎県選抜チームが対戦。
宮崎県選抜チームとして登板した戸郷投手は、5回1/3を投げて5安打2失点9奪三振と好投。
大勢のスカウトの前で、後のドラフト会議で複数球団から1位指名を受けることとなる根尾昂選手、藤原恭大選手からも三振を奪い、一躍脚光を浴びました。
この結果、U-18との壮行試合から1ヶ月後のドラフト会議で戸郷投手は巨人から6位指名され、巨人軍のユニフォームに袖を通すことになったのでした。
【戸郷翔征のアーム式投法】
ところでプロ野球ファンの中には、戸郷選手の投球フォームを見て既視感を抱いた人も少なくなかったのではないでしょうか。
そうです。戸郷選手の投球フォームは、1990年代後半に中継ぎ・リリーフとして巨人で活躍した西山一宇元投手と瓜二つなのです。
西山元投手は一時期、当時の長嶋茂雄監督から「(大魔神の)佐々木主浩以上」とまで評された速球派投手。
将来を期待されていましたが、シーズンごとの好不調の波が大きく、1軍での実働5年未満という短さで現役生活を終えました。
戸郷投手と西山元投手に共通する投球フォームの特徴は、「アーム式投法」であるということ。
アーム式投法とは、テイクバックを大きく取り、肘を完全伸ばしてから投げる投法です。球速は出やすいものの、球の出どころが見やすいため空振りが取りづらいという特徴があるといわれています。
たしかに西山元投手は、常時150キロ前後の球速を出していた割には奪三振数は多くなく、「150キロの棒球」と揶揄されていました。
このような西山元投手の例もあり、同じアーム式投法である戸郷投手が今後活躍できるのかを不安視する声も一部にはあります。
ところで、アーム式投法の代表的な投手として西山元投手と同じく挙げられるのが、小松辰雄元投手。
小松元投手は、中日ドラゴンズの元エース。
球速は常時150キロ超えを計測し、「スピードガンの申し子」と呼ばれました。最多勝2回、最多奪三振1回、最優秀防御率1回、沢村賞1回等、輝かしい成績を残しています。
戸郷投手は西山元投手のように未完の大器で終わってしまうのでしょうか。それとも小松元投手のように球界を代表するエースに成長するのでしょうか。
【戸郷翔征が日本シリーズでの敗戦で得たもの】
高卒1年目、2軍で好成績を上げ、1軍昇格後に快投を演じて注目を浴びた戸郷投手ですが、福岡ソフトバンクホークスと対戦した日本シリーズではプロの洗礼を浴びてしまいました。
ソフトバンク2連勝で迎えた第3戦、戸郷投手は4回表のマウンドに立ちましたが、四球、エラー、タイムリーで4失点。結局、この失点が響いて巨人は試合を落としました。
一見すると戸郷投手が炎上しただけに思えるこの試合ですが、実は大きなターニングポイントがありました。それは、内川選手のレフト前ヒットです。
戸郷投手は先頭打者である松田選手をストレート、カットボール、フォークで翻弄し、空振り三振に切って取りました。
次打者である内川選手に対しても、ストレートとカットボールで追い込む戸郷投手。
しかし6球目、外角低めギリギリにコントロールされた渾身のカットボールを、内川選手は泳ぎながらもレフト前へ運びました。その後の戸郷投手の乱調は前述のとおりです。
球界屈指のバットコントロール技術をもつ内川選手ならではのヒットではありましたが、戸郷投手は落胆。試合後、次のようなコメントを残しました。
「内川さんの一本の印象が大きかった。三振が取れたと思った。あのヒットで気持ちが落ちてしまった。あそこに投げても空振りが取れないと思うようになって、その後は投げるゾーンを徐々に上げてしまいました」
自分のボールへの自信がゆらぎ、精神的に負けてしまった戸郷投手。この経験を通して、戸郷投手は切り替えることの大切さを学ぶことができました。
真価が問われる2年目、戸郷投手はこの学びを生かし、より成長したピッチングを見せてくれるに違いありません。